シミュレーションモデル
トランジスタ、ダイオード等に使用するシミュレーションモデルは、部品: commandのval欄に.MODELステートメントを記述して設定します。
D: ダイオード
.MODEL書式
.MODEL modelname D [param1=val1] [param2=val2] ...
[...=...]の部分は省略可能です。省略するとデフォルト値が使用されます。
電流-電圧特性
\begin{align} I_D &= \text{AREA}\times (I_F-I_R)\\ I_F&= \text{IS}\left(e^{V_D/V_T}-1\right)\ , V_T=\frac{kT}{q}\\ I_R&= \text{IBV}e^{-\frac{V_D+\text{BV}}{V_T}} \end{align}- ISは標準解析温度(tnom)における飽和電流です。
- IRは逆方向ブレークダウンによる電流で、パラメータBVを設定しない場合(デフォルト値)は0となります。
飽和電流の温度特性
絶対温度Tにおける飽和電流は次式によって計算されます。TNは標準解析温度です。
\begin{align} &I_S(T)=\text{IS}\times\left(\frac{T}{T_N}\right)^{\text{XTI}}\exp\left[\frac{\text{EG}}{V_T}\left(\frac{T}{T_N}-1\right)\right]\\ &T_N=t_{nom}+273.15\text{ (K) }, t_{nom}=27.0\ ^\circ\text{C} \end{align}パラメータ
パラメータ | 意味 | デフォルト値 |
---|---|---|
IS | 飽和電流 | 1E-14A |
BV | 逆方向降伏電圧 | ∞ |
IBV | 逆方向降伏電流 | 1E-10A |
XTI | 飽和電流ISの温度係数 | 3 |
EG | バンドギャップエネルギー | 1.11eV |
CJO | 接合容量 | 0 |
注意事項
- 接合容量CJOの電圧依存性・温度依存性は考慮されていません(線形容量を並列接続したのと等価です)。
- 拡散容量は考慮されていません。
NPN,PNP: バイポーラトランジスタ
.MODEL書式
npnトランジスタ
.MODEL modelname NPN [param1=val1] [param2=val2] ...
pnpトランジスタ
.MODEL modelname PNP [param1=val1] [param2=val2] ...
[...=...]の部分は省略可能です。省略するとデフォルト値が使用されます。
コレクタ電流
\begin{align} &I_C=I_{CF}-I_{CR} -I_{BR}\\ &I_{CF} =\frac{I_S}{q_b}\left[\exp\left(\frac{V_{BE}}{V_T}\right)-1\right]\\ &I_{CR} =\frac{I_S}{q_b}\left[\exp\left(\frac{V_{BC}}{V_T}\right)-1\right]\\ &I_S=\text{IS}\times\text{AREA}\\ &q_b=\left(1-\frac{V_{BC}}{\text{VAF}}-\frac{V_{BE}}{\text{VAR}}\right)^{-1}\\ \end{align}ベース電流
\begin{align} &I_B=I_{BF}+I_{BR}\\ &I_{BF}=\frac{I_S}{\text{BF}}\left[\exp\left(\frac{V_{BE}}{V_T}\right)-1\right] \\ &I_{BR}=\frac{I_S}{\text{BR}}\left[\exp\left(\frac{V_{BC}}{V_T}\right)-1\right] \end{align}- qbはアーリ効果によってコレクタ電流が変化する成分です。
- エミッション係数は考慮されていません(NF,NR=1)。
- 大電流領域における電流増幅率の低下は考慮されていません(IKF,IKR=0)。
- B-E間及びB-C間pn接合を逆バイアスした際のブレークダウンは考慮されていません。
飽和電流ISの温度特性
ダイオードの場合と同じです。
電流増幅率の温度特性
\begin{align} &\beta_F(T)=\text{BF}\left(\frac{T}{T_N}\right)^{\text{XTB}}\\ &\beta_R(T)=\text{BR}\left(\frac{T}{T_N}\right)^{\text{XTB}} \end{align}パラメータ
パラメータ | 意味 | デフォルト値 |
---|---|---|
IS | 飽和電流 | 1E−16 A |
BF | 順方向電流増幅率 | 100 |
VAF | 順方向アーリ電圧 | ∞ |
VAR | 逆方向アーリ電圧 | ∞ |
BR | 逆方向電流増幅率 | 1 |
XTB | 順方向及び逆方向電流増幅率の温度係数 | 0 |
XTI | 飽和電流ISの温度係数 | 3 |
EG | バンドギャップエネルギー | 1.11eV |
CJE | B-E間容量 | 0 |
CJC | B-C間容量 | 0 |
AREA | エミッタ面積 | 1 |
注意事項
- CJE,CJCの電圧依存性・温度依存性は考慮されていません(線形容量を並列接続したのと等価です)。
- 拡散容量は考慮されていません。小数キャリア蓄積時間はシミュレートできません。
NMOS,PMOS: MOSトランジスタ
.MODEL書式
NMOSトランジスタ
.MODEL modelname NMOS [param1=val1] [param2=val2] ...
PMOSトランジスタ
.MODEL modelname PMOS [param1=val1] [param2=val2] ...
[...=...]の部分は省略可能です。省略するとデフォルト値が使用されます。
ドレイン電流
\begin{align} &I_D=0\ , V_{GS}\lt V_{TO}\\ &I_D=\beta\left(V_{GS}-V_{TO}-\frac{V_{DS}}{2}\right)V_{DS}\left(1+\text{LAMBDA}\ V_{DS}\right)\ , V_{GS}\ge0, V_{DS}\lt V_{GS}-V_{TO}\\ &I_D=\frac{\beta}{2}\left(V_{GS}-V_{TO}\right)^2\left(1+\text{LAMBDA}\ V_{DS}\right)\ , V_{GS}\ge0, V_{DS}\ge V_{GS}-V_{TO}\\ &\beta=\text{KP}\frac{W}{L} \end{align}トランスコンダクタンスの温度特性
\begin{align} K_P(T)=\text{KP}\left(\frac{T}{T_N}\right)^{-1.5} \end{align}パラメータ
パラメータ | 意味 | デフォルト値 |
---|---|---|
VTO | しきい値電圧 | 0V |
LAMBDA | チャネル長変調効果 | 0 (1/V) |
KP | トランスコンダクタンス | 100 uA/V |
CGS | G-S間容量 | 0 |
CGD | G-D間容量 | 0 |
CJO | 寄生ダイオードの接合容量 | 0 |
注意事項
- SPICEのレベル1を簡略化したモデルです。
- 基板バイアス効果(バックゲート効果)は考慮されていません。
- CGS,CGD,CJOの電圧依存性・温度依存性は考慮されていません(線形容量を並列接続したのと等価です)。
S2P,S3P: Sパラメータブロック
.MODEL書式
s2pファイルのファイル名を指定する場合
.MODEL modelname S2P FILE=filename
s2pファイルを格納したtextareaのidを指定する場合
.MODEL modelname S2P ID=id
s3pファイルのファイル名を指定する場合
.MODEL modelname S3P FILE=filename
s3pファイルを格納したtextareaのidを指定する場合
.MODEL modelname S3P ID=id
- ファイル名は拡張子を含めて記述してください。
- htmlファイルのあるディレクトリがカレントディレクトリとなります。
- サブディレクトリを指定するときは"/"(スラッシュ)で区切ります。
TL: 無損失伝送線路
.MODEL書式
.MODEL modelname TL [param1=val1] [param2=val2] ...
[...=...]の部分は省略可能です。省略するとデフォルト値が使用されます。
パラメータ
パラメータ | 意味 | デフォルト値 |
---|---|---|
Z0 | 特性インピーダンス | 50 |
VF | 速度係数(velocity factor)または波長短縮率 | 1 |
L | 長さ(単位はメートル) | 1 |
伝送線路は、特性インピーダンスZ0、速度係数VF、長さLから計算されるFパラメータ(縦続パラメータ)等価回路を使用しています。
真空中における電磁波の位相速度は c0=2.99792458×108 m/s ですが、伝送線路中での位相速度vpは
\begin{align} v_p =\frac{c_0}{\sqrt{\varepsilon_{eff}}} \end{align}となります。εffは伝送線路の実効比誘電率で、伝送線路を構成する媒質の比誘電率と伝送線路の形状で決まります。 速度係数VF (velocity factor)は、伝送線路中の位相速度と真空中の位相速度の比で
\begin{align} \text{VF} = \frac{v_p}{c_0}=\frac{1}{\sqrt{\varepsilon_{eff}}} \end{align}と定義されます。伝送線路中における波長λと真空中における波長をλ0の比(波長短縮率)は
\begin{align} \frac{\lambda}{\lambda_0} = \frac{v_p/f}{c_0/f}=\frac{v_p}{c_0} = \text{VF} \end{align}と速度係数に一致します。無損失伝送線路の伝搬定数(波数)β及びFパラメータは
\begin{align} \beta &= \frac{\omega}{v_p}=\frac{\omega}{c_0\text{VF}}\\ F&=\begin{bmatrix} \cos(\beta L) &jZ_0\sin(\beta L)\\ \frac{j}{Z_0}\sin(\beta L) &\cos(\beta L)\\ \end{bmatrix} \end{align}となります。$\beta L$は、位置がLだけ離れた2点の位相差で、電気長とよばれます。