代表的なオペアンプの回路形式

汎用オペアンプを使用する際、「同相入力電圧範囲」に注意する必要があります。 図1(a)の回路で入力電圧が同相入力電圧範囲の仕様値以下だと、内部のトランジスタが能動領域を維持できず、オフするものや飽和領域となるものが生じるので、イマジナリーショートが成立しなくなります。その場合、出力がHighになるのか/単に一定値となるのかは初段差動アンプの回路形式に依存します。

このページでは、汎用オペアンプに負帰還をかけてユニティゲインアンプとして単電源動作させたときのふるまい(主に同相入力電圧範囲)について解説しています。 ただし、初段アンプの特性に着目するため、最終段のプッシュプルアンプを省略しています。 ベース-エミッタ間電圧(VBEまたはVEB)のオン電圧は0.7V、飽和時コレクタ-エミッタ間電圧(VCEまたはVEC)は0.2Vとして計算しています。

図1: ユニティゲインアンプ   シミュレーション(4558) シミュレーション(741)

4558型: もっとも基本的な回路形式

型番: RC4558, NJM4558

4558型オペアンプは、シンプルな回路構成なので、オペアンプの内部回路を学ぶのに適しています。 初段はpnp差動アンプ(Q1,Q2)、初段の出力電圧vb5をエミッタフォロア(Q5)でバッファリングし、第2段のエミッタ接地アンプ(Q6)で増幅しています。 Q5のベース電流に着目すると、Q5,Q6によるダーリントン接続によって電流を増幅しているととらえることもできます。 D1はQ6が過負荷になるのを防ぐダイオードです。

同相入力電圧をVic(=vip=vin)とすると、

  Q5のベース電圧: VB5 = VBE6+VBE5 = 0.7+0.7 = 1.4V
  Q2のエミッタ電圧: Vx = Vic+0.7
  Q2のエミッタ-コレクタ間電圧: VEC2 = Vx − VB5 = Vic − 0.7

となります。Vic<0.9VでVEC2が0.2VとなってQ2が飽和します。 入力電圧をさらに下げると、Q5,Q6がオフし、VoutはVCCに跳躍します。

一方、電流源I1の両端の電圧は

  V(I1) = VCC − Vx = VCC − Vic − 0.7

なので、Vic>VCC−0.9 でI1が飽和します。よって、同相入力電圧範囲は

同相入力電圧範囲 Vic

  Vic(min) = VB5 + VECsat2 − VEB2 ≈ 0.9 V
  Vic(max) = VCC − VECsat(I1) − VEB2 ≈ VCC − 0.9 V


4250型: 段間レベルシフト+アクティブプルダウン

型番: LM4250

初段差動アンプの回路形式は4558型と同じですが、Q5,Q6でDCレベルシフトしてから第2段(Q8)に入力しています。Q5のベース電圧は

VB5 = VBE8 + VBE6 − VBE5 ≈ 0.7V

と4558型よりも0.7Vだけ低くなるので、その分だけ同相入力電圧の下限値が低くなります。 Q8のベースにはプルダウン抵抗ではなくトランジスタ(Q7)が使われています。これによって、同相入力電圧が下限値以下でも出力がHighに跳躍しません。

同相入力電圧範囲 Vic

  Vic(min) = VB5 + VECsat2 − VEB2 ≈ 0.2V
  Vic(max) = VCC − VECsat(I1) − VEB2 ≈ VCC − 0.9V

同相入力電圧の下限値以下で出力がHighに跳躍しない理由

4558型と同様に入力Vipが同相入力電圧の下限値以下になるとQ2が飽和してVB5が下がるのでQ8がオフしてVoutがHightにプルアップされるように見えますが、そのようにはなりません。 なぜなら、Vxも入力Vipと一緒に下がるのでQ1,Q3、そしてQ7がオフするからです。Q7がオフすると電流源I2の電流がQ8のベースに供給されてQ8はオンを維持するので出力はLowとなります。


アクティブプルダウンとしない場合

上の回路のQ8のベースプルダウンをトランジスタ(Q7)の代わりに抵抗とすると、同相入力電圧が0V付近で出力がHighに跳躍してしまいます。


358型: 定番単電源オペアンプ

型番: LM358,LM2904, NJM2904

358型オペアンプは同相入力電圧が0Vでも初段差動対(Q1,Q2)が飽和しません。pnpエミッタフォロアQ8,Q9,Q5でDCレベルシフトしているからです。 同相入力電圧範囲は以下のようになります。

同相入力電圧範囲 Vic

  Vic(min) = VB5 + VECsat2 − VEB2 − VEB9 ≈ −0.5V
  Vic(max) = VCC − VECsat(I1) − VEB2 − VEB9 ≈ VCC − 1.6V

0V入力できる代わりにVic(max)が他の形式よりも0.7Vだけ低くなります。

※ 0V同相入力・0V出力が可能なオペアンプは「単電源オペアンプ」と呼ばれています(ただし正確に0V出力ができるわけではありません)。単電源オペアンプは0V入力・0V出力が可能ですが、電源電圧付近の電圧の入力・出力はできません。


741型: npn入力で疑似的にpnp差動入力を実現したもの

古いオペアンプですが、まだ売っています。

型番: LM741, uA741, LM1458

このオペアンプは初段差動アンプが特徴的です。Q1,Q2はエミッタフォロア、Q3,Q4はベース接地アンプとして動作します。 入力電圧が約2.3V以下になるとQ4が飽和します。さらに下げるとQ1,Q3,Q5,Q6がオフします。このとき、Q9,Q10はオンを保つので4558型のように出力がHighに跳躍しません。詳しくはLM741オペアンプで解説しています。

同相入力電圧範囲 Vic

  Vic(min) = VB9 + VECsat4 + VBE2 ≈ 2.3V
  Vic(max) = VCC − VEB8 − VCEsat1 + VBE1 ≈ VCC − 0.2V


Q4が飽和したときの等価回路

飽和したトランジスタは(制御電流源の付かない)単なるダイオード(D2,D3)としてふるまいます。D2,D3によってVB3=Vin−1.4V程度に固定されるので、入力Vipが変化してもQ2電流が調整さません(イマジナリーショートが成立せず、出力Voutは一定値となります)。