もっともシンプルなPTAT電流源

PTAT電流源とは、絶対温度に比例する(PTAT: Proportional To Absolute Temperature)電流をつくる回路で、 生成したPTAT電流を抵抗に流して正の温度係数をもった電圧をつくり、基準電圧発生回路の温度補正に使用することができます。

動作原理

下の回路はpnpカレントミラーとnpnカレントミラーを組み合わせたもっともシンプルなPTAT電流源回路です。動作原理はセルフバイアス回路の考え方の「カレントミラーを使用したセルフバイアス回路」と同じです。

この例ではQ1とQ2のエミッタ面積比をn=10としています。スタートアップスイッチをオンしてQ1に電流を流すと、Q1→Q2→Q3→Q4と電流がループするとともに増幅されます。電流が増幅されるとともにR1に生じる電圧によって電流ゲインが低下し、定常状態では電流ゲイン=1となります。 室温での電流は \begin{align} I_{R1} = \frac{V_T\ln(n)}{R_1} =\frac{60\text{mV}}{1\text{k}\Omega}=60\text{ uA} \end{align} となります。この回路はループゲインをあまり大きくできないので、トランジスタのもつ欠点が出力に現れてしまいます。高精度電流源には適しません。


スタートアップ回路

左側の回路はQ5をスタートアップスイッチとしてQ1∼Q4部分に電流を供給します。 R2は、定常状態において両端の電圧がダイオードのオン電圧×2個となるような値にします。すると定常状態においてQはベースとエミッタ電位が等しくなりオフします。この回路の最低動作電源電圧はダイオードのオン電圧×3≈2.1Vとなります。

右側の回路はpnpトランジスタをスタートアップスイッチとして使用した回路で、左側の回路よりも低電圧で動作可能です。Q8のコレクタ電流をそれとカレントミラー接続されているQ10で検出し、抵抗R5を利用して電圧に変換しQ11を制御しています。Q6∼Q9がオンするとvb11が上昇するのでQ11はオフします。 ただし、この回路はQ10のベース電流がQ8のコレクタに流れて誤差となる欠点があります(CMOSならばこの欠点は生じません)。