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能動領域バイポーラトランジスタの等価回路

トランジスタをアナログアンプとして動作させる際は、ベース-エミッタ間pn接合に順バイアス、ベース-コレクタ間pn接合に逆バイアスを印加します。このときの等価回路について解説しています。

大信号等価回路(直流等価回路)

図1はnpnトランジスタの大信号等価回路を簡略化して描いたものです。ベース-エミッタ間pn接合(DBE)とベース-コレクタ間pn接合(DBC)を背中合わせにした構造となっています。 トランジスタは、単に2つのダイオードをくっつけたものとは異なり、ベース幅を非常に薄くしてあるため、DBEをオンしてエミッタ電流IEを流すと、IEのほとんどが(ベースではなく)コレクタ側に流れます。それが図1(b)の制御電流源αIEです(αは0.995程度です)。

図1: 能動領域バイポーラトランジスタの大信号等価回路

図1(b)よりIC,IB,IEの関係は次式のようになります。

IC=αIEIE=IB+IC

一般に、トランジスタ回路はエミッタ接地で使用するので、ベース電流IBを入力、コレクタ電流ICを出力と考えます。 上式よりICとIBの関係を求めると

IC=βIB , ただし β=α1α

となります。たとえばα=0.995とするとβ=199(約200)となります。上式を図示したものが図1(c)です。 この式より、ベース電流をわずかに変化させると、コレクタ電流がそのβ倍だけ変化すること、つまり電流の変化分が増幅されることがわかります。

コレクタ電流ICをベース-エミッタ間電圧VBEの関数として表すと、ダイオードの電流-電圧特性と同様に

能動領域コレクタ電流
IC=IS(eVBEVT1)ISeVBEVT , VT=kTq

となります。ISはエミッタ面積に比例し、温度上昇とともに増加します。

一般に、回路の動作点を手計算で求める際は図1(c)のモデルを使用し、DBEのオン電圧を0.6∼0.7Vとして計算しますが、 コンピュータで数値計算する際は、図2のモデルを使用します。図2の電流-電圧特性は図1(c)と同じですが、内部ノードがないので数式の扱いが楽になります。

図2: 能動領域バイポーラトランジスタの大信号等価回路(もう一つの形式)

実際のコレクタ電流は図3のようにベース-エミッタ間電圧VBEだけでなくコレクタ-エミッタ間電圧VCEにもわずかに依存します。 これは、VCEが増加するとともにベース-コレクタ間pn接合の逆バイアスが大きくなって空乏層幅が広がり、実効的なベース幅が小さくなるからです(アーリ効果)。アーリ効果を考慮した能動領域のコレクタ電流は次式のようになります。

能動領域コレクタ電流(アーリ効果考慮)
IC=IS(1+VCBVA)(eVBEVT1)
図3: IC vs. VCE   シミュレーション

コレクタ遮断電流を考慮した場合

バイアス点の温度ドリフトを考える際は、コレクタ遮断電流(ベース-コレクタ間pn接合の逆方向電流)を考慮します。コレクタ遮断電流を考慮したトランジスタの等価回路は、図4のようにコレクタ遮断電流を考慮しないトランジスタの入力に電流源ICBOを接続した形となります。

図4: バイポーラトランジスタの大信号等価回路(コレクタ遮断電流考慮)

小信号等価回路

小信号等価回路の形式は何種類かありますが、基本的にはMOSトランジスタと共通の形式である「ハイブリッド・パイ形等価回路」を使用します。 ハイブリッド・パイ形等価回路はYパラメータ等価回路を簡略化したものなので、Yパラメータを求めるのと同じ手順で求めることができます。

図5: バイポーラトランジスタの小信号等価回路
ib=rπvbeic=gmvbe+1rovbc

より、各パラメータは次式のようになります。

小信号パラメータ
gm=icvbe|vce=0=ICVBE=ICVTrπ=vbeib|vce=0=VBEIB=VBE(IC/β)=βgmro=vceic|vce=0=VCEIC=VCBIC=1ICVCB=VAIC

小信号パラメータの計算例は固定バイアス回路をご参照ください。

寄生容量を考慮すると下図のようになります。

図6: バイポーラトランジスタの小信号等価回路

※ 古い電子回路の教科書では、Hパラメータ等価回路を使用して解析していますが、これから学習する場合は、MOS回路と共通形式であるハイブリッド・パイ形(Yパラメータ等価回路)を中心に考えるのがよいと思われます。ただし、負帰還回路の解析では、帰還の種類(電圧帰還/電流帰還、直列注入/並列注入)に応じて適切な等価回路を選びます。 たとえば電圧帰還・直列注入形の場合はHパラメータ等価回路、電圧帰還・並列注入形の場合はYパラメータ等価回路を使用します。