pn接合ダイオードの電流-電圧特性

pn接合は、単結晶シリコンの中に人工的にエネルギー障壁をつくり、この障壁の高さを外部電圧で変化させてキャリアの流れをコントロールする素子で、電流が正極から負極の方向にしか流れない特性を有します。

pn接合の電流-電圧特性
\begin{align} &I=I_S\left(e^{\frac{V}{V_T}}-1\right)\ ,\ V_T=\frac{kT}{q} \end{align}
図1: ダイオードの電流-電圧特性  シミュレーション

熱平衡時

熱平衡時(印加電圧V=0)におけるpn接合のバンド図は図2のようになります。 p領域では、価電子帯の電子が伝導帯及びアクセプタ準位に励起され、ホール(正孔)が多数キャリアとなります。一方、n領域では価電子帯とドーナー準位の電子が伝導帯に励起され、電子が多数キャリアとなります。各領域において、エネルギーとキャリア密度の関係はほぼ指数関数と(エネルギーが大きなキャリアほど少なく)なります。

p領域はホールが多数キャリア、n領域は電子が多数キャリアと電気的性質が異なりますが、境界に内部電界(障壁φ0)ができるので、混ざり合って均一化されません。 電気伝導に寄与するキャリアは、障壁を超えることができる(a)及び(b)の範囲のものですが、この範囲に含まれるキャリアの数がp領域とn領域で等しくなるように内部電界ができるので、キャリアの流れは生じません(熱平衡の状態では電流が流れません)。

図2: 熱平衡pn接合のバンド図

順方向バイアス印加時

pn接合に順方向バイアスVを印加すると、図3のようにp領域とn領域の間の障壁がVだけ低くなり、n領域の電子が障壁を越えてp領域に、p領域のホールが障壁を越えてn領域に注入され、定常的なキャリアの流れ(電流)が生じます。

n領域の電子のうち障壁を越えることができる電子密度nn、p領域のホールのうち障壁を越えることができるホール密度pp

\begin{align} n_n&=n_{p0}e^{\frac{V}{_VT}}\ ,\ V_T=\frac{kT}{q}\\ p_p&=p_{n0}e^{\frac{V}{V_T}} \end{align}

と電圧の指数関数に比例します。

図3: 順方向バイアス印加時のpn接合のバンド図

価電子帯のホールの流れに対応する電流、伝導帯の電子の流れに対応する電流を求めます。

ホール電流: p領域からn領域へのホールの注入によって生じる電流

図3の価電子帯のようにp領域のホールがn領域に注入されると、注入されたホールは拡散によって進行しますが、n領域ではホールは小数キャリアであるため、再結合によって失われてしまいます。x軸の原点を空乏層とn領域の境界面にとると(図3参照)、ホール密度の分布は図4のようになります。

図4: p領域のホール密度

図4の分布p(x)を求めるには、小数キャリア連続の式を解きます。

\begin{align} &D_p\frac{\partial^2p}{\partial x^2}-\frac{p-p_{n0}}{\tau_p}=\frac{\partial p}{\partial t}\\ \text{境界条件:}\quad &x=0:\ p(x)=p_{n0}e^{\frac{V}{V_T}}\ ,\ x\to\infty:\ p(x)=p_{n0} \end{align}

Dpはホールの拡散定数、τpはホールの寿命(再結合によって失われる割合)です。定常状態における解は

\begin{align} p(x)-p_{n0}=p_{n0}\left(e^{\frac{V}{V_T}}-1\right)e^{-\frac{x}{L_p}}\ ,\ L_p=\sqrt{D_p\tau_p} \end{align}

となります。Lpを拡散長といいます。x=0における電流密度は

\begin{align} J_h = -qD_p\frac{dp}{dx}=\frac{qD_pp_{n0}}{L_p}\left(e^{\frac{V}{V_T}}-1\right) \end{align}

となります。


電子電流: n領域からp領域への電子の注入によって生じる電流

n領域の電子がp領域に注入されることによって生じる電流密度も同様の手順で求めると

\begin{align} J_e =\frac{qD_nn_{p0}}{L_n}\left(e^{\frac{V}{V_T}}-1\right) \end{align}

となります。Dnは電子の拡散定数、Lnは電子の拡散長です。n領域からp領域への電子の流れは、p領域からn領域へ流れる電流と等価です。


電流-電圧特性

先に求めたJh, Jeより、pn接合の接合面を流れる電流密度は図5のようになりますが、定常状態ではp, nそれぞれの領域において、注入によって増加または減少した電荷を相殺する電荷が外部回路から供給され、電気的中性条件が保たれます。よって、接合の面積をAとすると、外部回路を流れる電流は

pn接合の電流-電圧特性
\begin{align} &I=(J_p+J_e)A=I_S\left(e^{\frac{V}{V_T}}-1\right)\\ &I_S=q\left(\frac{D_pp_{n0}}{L_p}+\frac{D_nn_{p0}}{L_n}\right)A \end{align}

となります。

図5: 順方向バイアス時の電流

逆方向バイアス印加時

pn接合に逆方向バイアスVを印加すると、図6のようにp領域とn領域の間の障壁が熱平衡のときよりもVだけ高くなります。多数キャリアであるn領域の電子、p領域のホールは障壁を越えて移動できず、ぞれぞれの領域の少数キャリアだけが矢印の方向へ移動できます。このときの電流は順方向バイアス印加時の電流と比較して無視できる程小さく、ほとんど電流が流れないとみなすことができます。

電流-電圧特性の求め方は、順方向バイアスの場合と同じで、結果も同じ式になります。

図6: 逆方向バイアス印加時のpn接合のバンド図

このように、pn接合の電流-電圧特性は、p領域とn領域の境界にできるエネルギー障壁により、電流が片方向にしか流れない特性となります。電流-電圧特性が指数関数となるのは、電子及びホールのエネルギー分布が指数関数となっており、障壁を超えることができるものの数が印加電圧の指数関数に比例するからです。